投票コメント全紹介 その1
4月2日におこなわれた翻訳ミステリー大賞授賞式&コンベンションにて(大賞の結果はこちらです)、無事に読者賞の発表ができました。投票いただいたみなさま、さまざまな形でご支援いただいたみなさまには心から御礼申し上げます。読者賞の結果と全投票結果のPDFは、こちらのほうでごらんいただけますので、ぜひご確認ください。投票の際には、作品に対するコメントをたくさんいただいたのですが、時間の都合により、授賞式でご紹介することができなかったため、これから数回に分けて、当ブログでコメントをすべてご紹介させていただきます。おなまえは伏せさせていただき、改行を少し調整させていただいていることを先にお断りしておきます。今回は、1位から7位作品へのコメントをごらんください。※コメントなしでの投票があるため、順位とコメントの数が合わない場合があります。第1位『声』アーナルデュル・インドリダソン/柳沢由実子(訳) 東京創元社
- 被害者家族の関係とともに、主人公エーレンデュルの過去もまた、今作では語られており、その過去と彼が抱えている罪悪感が悲しく、切ない。そしてそれを抱えることによって、自らの家族との間にできている溝も、エヴァとの時に激しいやり取りでは、胸を突くような痛みを覚える。人間の不器用さをどうぞ、許してやってほしいと祈りたくなる。このシリーズは、そういう人間ドラマも含めて、大好きです。
- 事件の被害者や捜査官エーレンデュル自身が抱えている問題も含め、家族との関わりや幼少期の親子関係が、その後の人生に及ぼす影響について考えさせられました。捜査の過程で被害者の生涯を丁寧に辿ってゆくエーレンデュルや、彼を気遣う同僚たちが、シリーズの回を重ねるごとにどんどん好きになってきました。
- 暗くて寒くて侘しいけれど、心に響きました。
- 読み終わってもう一度この題名を思うときに、やるせなくも慰められるような感情が呼びおこされたこと、そして三作目にしてやっと主人公エーレンデュルが心の内を少し明かしてくれたことに喜びを感じたので、一票投じたいと思います。
- とにかく悲しく、泣けた。一瞬の、そして幻の栄光から遠く離れてしまった男の人生と家族の哀しみと捜査官の人生が重なった深いドラマをしみじみと感じた。自分が若くても理解できなかったし、逆にこれより年を取った時に読んだらつらくて読めないかもしれない。そういう意味では本とのめぐりあわせの妙を感じました。
- これほど印象深い、哀しい被害者が登場する話を読んだ記憶がなかったので、こちらを選ばせていただきました。
第2位『もう過去はいらない』ダニエル・フリードマン/野口百合子(訳) 東京創元社
- バック・シャッツにいちど会ってください。損はさせません。
- 死にぞこないハードボイルド爺さんのしぶとさは、中高年のあこがれです。
- ミステリーとしてだけではなく、ユダヤ系アメリカ人の現代史としても、大変に面白かった。実にユニークな作品。3巻目ではさらに過去にさかのぼって、近代史となっていくのではないかと期待がつのる。名言は「分別」! これを読んでから、会話によく出るようになってしまった。「分別をたたき込んでやる」
- この作品を読んで、アメリカで銃規制に反対する人たちの心情がわかったような気がしました。新聞・テレビのニュースだけでは感じることはなかったのに。外国の小説を日本で翻訳・出版するのにはこういう意味があるのだと実感しています。
- 投票対象作品の既読が少なく恐縮なのですが、締め切り前に読んだこれに一票を。要介護のお年寄りによるハードボイルド、という「設定勝ち」だけに寄りかかることなく、難しい物語を成立させる手際と、過去の事件の謎解きに唸りました。
第2位『ゲルマニア』ハラルト・ギルバース/酒寄進一(訳) 集英社
- 第二次世界大戦中のドイツの緊迫した様子がよく書かれていたと思います。
- これぞエンターテイメント!という読み応えと読後感が最高でした。集英社文庫さんは外文(最近特に)頑張ってらっしゃるのに、どうしても書店の「棚の領土」が少なくて大きく展開されないので、そこも加味して応援したいです。
- 2015年中、かなりの期間楽しませて貰いました♪ 続編も楽しみです。
- 歴史ものとしても面白く、ミステリーとしても読み応えある。歴史ミステリーは実際のものを書きながらも、話を辻褄を合わせて展開する苦労があるのだろうと思う。続編が読みたいと思う。
- この作品が面白いのは言うまでもなく、この本に関わる全ての方が、この素晴らしい本をできるだけたくさんの人に届くように、そして読者がさらに作品世界に引き込まれるように取り組まれ、素晴らしい読書体験を広めてくださったことに感謝を表すために票投じさせて頂きます。この作品に関連する全てのプロモーション、イベント、そして装丁など全てがこの作品の世界を丁寧に扱い、伝わりにくい外国人作家の意図や想いを丁寧に伝えてくださったと思います。ただ本を消費するのではなく、読書を通じてもっと広い世界を知ることを意識するようになってまだ数年の若輩ものですが、読み手に本を届けることの難しさ、関係者多大な貢献なくして読者になることができないことを痛感いたしました。今後も続編が刊行されるとのこと、本当に楽しみにしております。ありがとうございました。
第2位『その罪のゆくえ』リサ・バランタイン/高山真由美(訳) 早川書房
- 長く心に残る物語
- 母になる/母である」という意味と「家」という意味と意義に胸が痛く、熱くなる。とてもとても好きな作品でした。
- 弁護士ダニエルとミニーの過去パートがとても印象的でした。昨年の8月に読み終わってからずいぶん時間が経ちますが、ミニーのことを何度も思い返しています。
- 薄れかけた親子の絆を描いた家族小説にして、極上の成長小説でもある本作は、自分内昨年度ベスト・ワンの名に相応しい傑作でした。
- 裁判シーンが屁理屈合戦に陥らず、弁護側がちょっとお目にかかれないような暖かく力強い気持ちの入った論証が行うのには胸を打たれた。
第5位『悲しみのイレーヌ』ピエール・ルメートル/橘明美(訳) 文藝春秋
- 『その女アレックス』を先に読んでいて、ネタバレしていても面白かった。これからもルメートルさんに翻弄されたい。
- 予告なく突然襲ってくる新たな展開。この切れ味がルメートルの真骨頂。
- 海外ミステリーファンにとってはたまらない要素が散りばめられた、渾身の力を込めて書き上げたであろうルメートルの処女作。暴力的な悪意に満ちた作品ながら、すべてをひっくり返す驚きの要素で魅せる、メリハリの効いた読後感含めて素晴らしかったです。フレンチミステリー従来の魅力に現代的なスピード感が加わり、アレックス同様、忘れられない一作でしたので投票いたします。
- だまされた感がとてつもなくよかったです。カミーユに共感を寄せたい読み手の心情を見事に逆手に取った展開に、腹が立ちつつ引きこまれずにはいら れませんでした。前知識なしで読んだらショックで立ち直れないところでした。むしろ『その女アレックス』を先に読んでいてよかったかもしれません。
第5位『エンジェルメイカー』ニック・ハーカウェイ/黒原敏行(訳) 早川書房
- あらゆる要素がぎっしり詰め込まれたエンターテイメント作品。読んでも読んでも終わらない物語に、魅了されました。
- ミステリー、スパイ小説、冒険小説、ピカレスク小説、SF、スチームパンク、ビルドゥングスロマーン等、ありとあらゆるジャンルをひとつの作品にまとめあげた力技に脱帽。読んでいてただただ楽しかったです。
- 物語のうねり、冒険心、キャラクターの愛嬌、そしてユーモアと、ミステリーのみならず大衆小説に必要なすべての要素を備えた傑作だと思います。
第7位『ドクター・スリープ』スティーヴン・キング/白石朗(訳) 文藝春秋
- あの『シャイニング』の続編が、これほどの歳月を経て登場!ということで、邦訳を心待ちにしておりました。事前に『シャイニング』を再読し、キューブリック版の映画も観直して、万全の体制(?) で臨みました(笑)。ホラーの傑作との誉れ高い前作の単なる「続き」ではなく、アプローチを変えてエンタメ性を高め、かつ前作のファンを楽しませる要素が随所に盛り込まれ、ちょっぴりセンチメンタルな仕上がりの本作は、近年のキングらしく、「続編」の枠を超えて楽しめる新作となっていました。また、これを機に再読した『シャイニング』は、自分が年齢を重ねてみると、恐怖やリアリティを感じるところに変化があり、繰り返しの再読に耐え得る時代を超えた傑作であることを再確認しました。『シャイニング』の映画は観たけど原作は読んでいない…あるいは、怖いと聞いて手をつけていない…という方々に、この『ドクター・スリープ』の邦訳をきっかけに、是非時代を超えた傑作『シャイニング』から続けて読んで頂きたいな、と思いました。余談ではありますが、本作を取り上げた円卓会議にいらしていただいた白石朗さんから、訳語の選び方について面白いお話を沢山伺えました。翻訳作品の色を決めるのは、やはり翻訳者なのだと改めて感じました。
- ホラーは苦手だけど、シャイニングは大好きな作品。その続編で大きくなったダニーに出会えた、それだけでもう胸が一杯になりました。
- シャイニングにこんな着地があったなんて 長生きしてよかった、と 心の底から思いました。ありがとうキング!
- 「シャイニング」に魅せられたものにとっては必読 前作と比較されるプレッシャーを跳ね返すキングの筆力に今回も圧倒されました。
- 『シャイニング』未読では楽しさ100パーセントとはいかないだろうが、単独で読んでもストリーテリングの巧みさに舌を巻くはず。訳文のうまさも文句なし。
第7位『彼女のいない飛行機』ミシェル・ビュッシ/平岡敦(訳) 集英社
- 真相がわかりそうでわからないじれったさに、ページをめくる手が止まりませんでした。各々の目論見が錯綜し舞台が動くていくのも読者を飽きさせず、ラストは向かうべき場所に進んで着地する。結末の処理も上手いです。
- ここ2年ばかりフレンチ・ミステリに心乱されていますが、この作品は間違いなく最近のなかでベストミステリです。
- 読みはじめたときはいまひとつ物語に入りこめなかったけれど、作者の焦らしにまんまとのせられて、結末が気になって一気読みでした。
- 残念ながら、翻訳ミステリー大賞の候補には漏れてしまいましたが、候補になってもおかしくなかった作品だと思います。
- 新たな事実が明らかになるのが18年後でなければならなかった理由にはほんとうに驚いたし、同時に膝を打ちまくりました。
次回は、9位、10位作品へのコメントをご紹介します。
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