第55回せんだい読書会レポート

2019.1221せんだい探偵小説お茶会「アメリカ銃の秘密」読書会報告(文責 クイーン・ファン)

[amazonjs asin="4041014549" locale="JP" title="アメリカ銃の秘密 (角川文庫)"]

第一幕

 おかげさまで,せんだい探偵小説お茶会の7年目を終えようとしている2019年の暮れ,エラリー・クイーン祭りが満員御礼で無事開催されました。この場をお借りして,ご協力を賜った飯城勇三氏とご参加(メールでの参加)いただいた皆様に心より御礼申し上げます。

 さて,本題に入って。前々回の「スペイン岬の秘密」,前回の「シャム双子の秘密」と同様に,エラリー・クイーンファンクラブ以外のミステリランキングに取り上げられたことのない作品であります。1983EQFC(エラリー・クイーンファンクラブ)国名シリーズ+1アンケート11位(最下位),1997EQFC全長編アンケート17位,2014EQFC国名シリーズ+2アンケート10位と,「スペイン岬の秘密」「シャム双子の秘密」よりも評価が低い作品でありますが,本作品も魅力的な作品であることは間違いありません。会場に集った13名は,どのようなことをお話ししたのか? そしてアンケート結果の行方は? それでは,はじまり,はじまり!(出てくるページ数はすべて角川新訳版対象となります)

第二幕

 毎回,クイーン読書会では,作品にちなんだお菓子が出てきます。前回の読書会では,探偵が菓子を食べる場面が見つけられなかったので,ホストの菓子選びは,お茶を濁すようなセレクトになってしまいました。そこで次回の読書会では探偵が菓子を食べている場面に出会えることを祈念していると,今回はありました!本書「アメリカ銃の秘密」(角川版エラリ-・クイーン著・ 訳・越前敏弥・国弘喜美代)408ページに! ホストからは,その本作品に出てきた「ブリオッシュ」を提供しました。実は,ホストはしばらく冷凍保存したあとに,レンジで温めて食べてみましたら,なかなかの美味で,味わいながら読書会の至福の時間を思い出しました。 閑話休題。

 さて,自己紹介を終えて読書会は本書の内容へと。参加者の感想は以下のようなものでした。

「精密化したパズル」

「手掛かりの描写の仕方をどうしているか注意して読み,さすがにうまいものだなあと感じました」

「サイレントからトーキーへの移り変わりが発端ともいえる点が,横溝作品を思い出す」

「ストーリーはとてもシンプル。謎が少ないのでもっと短くできるかも」

「○○と○○が,○○という記述があれば高評価。作者は犯人を当てさせる気があったのでしょうか? ただ面白い! 結果的には満足!」

「面白かったのですが,最後の終わりがなんともすっきりしない感じなのが残念」

「エラリーって,文章から香り立つほど魅力的だったかしら・・・。犯人が明らかになった時には頭が真っ白!」

「ここまで大盤振る舞いの内容であったかと驚愕した。論理の詰め方に瑕疵が少なく徹底している」

「感心させられたが,そこに一定のリアリティがないと『意外な推理』も納得性がない。人間心理も加味した合理的な謎解きという点で,上位の国名シリーズより見劣りする」

「再読なのに,すっかり真相を忘れていた。○○○○〇トリックにビックリ」

「銃を装飾している時代が好きなので,それだけでとても満足」

今回は,メールでの感想もいただきました。その中からピックアップをいくつか。

「○○の隠し場所は中々の盲点で上手いと思います」

「クイーンよりもカーの作風に近い印象を受けました。衆人監視の中の殺人,どこにも見つからない凶器,そして理路整然と無理矢理な解決編…どれも大変カーが好みそうです。よって私も好みです(笑)」

感想と重なる部分もありますが,美点として挙げられたのは,

「パズルにかけるいさぎよさ」

「論理の積み重ねだけでひっくり返してしまう。こういうのを論理のアクロバットというのだろう(論理と意外性の両立)」

「隠し場所とありえそうなトリック」

「アメリカ的な素材がふんだんにちりばめられている」

「○○は奇跡だったという台詞から逆説的に○○○○〇トリックを作ったところはブラウン神父を意識してかな」

「ジューナがかわいい」こと等々でした。

疑問点や気になる点としては,

「動機と行動に整合性が見られない。だからすっきりしない終わり方」

「○○が熱を持っているのに○○できたのか?」

「ボクシングシーンはいらなかったのではないか(マディソンスクエアガーデンとわからせるため?)」

「銃の名手といえども犯行方法にリアリティが感じられない」

「手掛かりのところからも○○○○〇トリックはすぐ見破られるのでは。無理があるのではないか?」

「2万人の観客を閉じ込めるのはありえない」

「本書83Pの図からも殺害時の記録写真が正面から撮られているはずなのに,245Pの記述ではコーナーで遠心力がかかっている状況を正面から撮ったと記述されている。コーナーは明らかに正面から撮影できない」

「犯人が○○もせずに○○してしまった」

「手でひねって壊れる金庫は,如何なものか? 文章からイメージするのが難しかった」

「○○に,いつそんな練習をしていたのか?」

「ブラウン神父の名前を出したことに,もう少しリスペクトしてほしかった」等々があがりました。

第三幕

 好きなキャラクターや台詞,場面についてもお話をうかがいました。キャラクターは,

「カービー少佐」仕事ができる。簡単に協力する。連続射撃のスゴ技。

「クイーン警視」息子思い。

「ジューナ」やっぱりかわいい。

「ヴェリー部長」エラリーの対極にいる感じに好感。

場面は,

サイレントからトーキーへ移る時代を感じさせる。

ジューナの紹介からコロシアムへの入場。

エラリーが映像の編集を知らないシーン。

ヴェリーの「よくしゃべりますね」でエラリーが沈黙。

弾道推理のシーン

二度目の殺人(やっちまった。これで犯人はつかまるな)

451Pの惨劇を思い出すシーン。

台詞は,

「おたふくかぜにかかった,ケンタッキーの山男みたいだ」(いなかっぺという意味かも)273P。

エラリーの247P,248P,386P,406P,408P。

クイーン警視の「いいから口を閉じてろ!」から。80P。等々がでてきました。

第四幕

 今回も参加者の方々にアンケートのご協力をいただきました。計13名の方々,ご協力ありがとうございました。(それぞれ10点満点です)

 一昨年の「シャム双子の秘密」せんだい探偵小説お茶会アンケートの平均点が以下のような結果でした。






















 
プロット
サスペンス
解決
文章
論理性

感動・

余韻

平均点
6.8
7.5
5.8
6.8
6.6
7.3

はたして,クイーンファンクラブの国名シリーズアンケートで評価が下位になってしまう「アメリカ銃の秘密」のせんだい探偵小説お茶会での評価は如何に?

「アメリカ銃の秘密」のアンケート結果は以下のようなものとなりました。


































































































































 
プロット
サスペンス
解決
文章
論理性

感動・

余韻

参加者
6
3
5
6
5
6
参加者
7
6
9
8
9
9
参加者
6
5
7
7
7
8
参加者
5
4
6
5
7
3
参加者
8
8
7
6
7
7
参加者
7
4
8
7
9
5
参加者
6
5
8
7
7
6
参加者
6
7
3
8
6
6
参加者
7
7
9
10
8
6
参加者
6
3
6
2
8
2
参加者
7
4
7
7
6
7
EQⅢ
7
9
9
8
9
5
ホスト
9
7
10
8
9
8






















 
プロット
サスペンス
解決
文章
論理性

感動・

余韻

平均点
6.7
5.5
7.2
6.8
7.5
6

 昨年は,「シャム双子の秘密」と「スペイン岬の秘密」の平均点を比較してみると,ほぼ同じぐらいの点数となりました。ただし厳密に計算をしますと(平均点を足して6で割ります),「シャム双子の秘密」の方が少し高い点数でありました。

 以下は,せんだい探偵小説お茶会での「スペイン岬の秘密」の点数となります。






















 
プロット
サスペンス
解決
文章
論理性

感動・

余韻

平均点
6.4
5.9
7.6
6.3
7.3
6.2

 

 

 

 ドラマチックな作風の「シャム」に軍配が上がり,パズル性の高い作品が同じ点数になったことに興味を持ちました。

 パズル性よりも小説としての評価が「アメリカ銃の秘密」の評価が下位となってしまったのかもしれません。それでもパズル性が評価されている(個人的な考えです)「スペイン岬の秘密」と平均点が同じというところは,クイーンのミステリに対する実験精神のレベルの高さを物語っているように思えます。

 本作品でも皆様がいろいろとお話をしていただき幸甚でありました。録音した音源を聴いてニヤニヤしている姿を妻が見て,気色悪そうな表情を見せていました。今回もホストは,皆様のミステリ愛,クイーン愛をひしひしと感じることができました。

 読書会終了後には,他県からいらしたM氏とM氏,仙台市のT氏からの古本プレゼントじゃんけんで奪い合いコーナーが開かれ,参加者全員が(ホストが一番大人げなく)鼻息を荒くして参加しました。目玉が飛び出るような稀覯本から,同人誌,新刊文庫から絶版本をいただきました。この場も借りて三氏への御礼を申し上げます。

 終幕

 2019年中,もしくは2020年のはじめに報告できればよかったのですが,仕事が遅く,他のこともしなくてはならなくて大幅に遅れてしまい,アンケートにご協力いただいた方々に大変申し訳なく思っております。この場を借りてお詫び申し上げます。

 その間にコロナウイルスの感染が広がり,読書会にも影響が出て,この先の見通しはまだつきないと思えます。はやく終息に向かい,読書会を心置きなくできることを祈念しております。

 今回もクイーン作品を再読し,参加された方々の正直なお話を聞けて,本当に幸甚でありました!

 エラリー・クイーンの作品の深淵はまたまだ何かがありそうです!!

 次回のクイーン祭りは「ギリシャ棺の秘密」を予定しております。皆様どうぞお元気で!!!

スペシャルボーナス(クリックするとPDFファイルがひらきます)

真相に触れております。未読の方はご注意を!


[amazonjs asin="4041014565" locale="JP" title="スペイン岬の秘密 (角川文庫)"][amazonjs asin="4041014557" locale="JP" title="シャム双子の秘密 (角川文庫)"][amazonjs asin="4846010570" locale="JP" title="エラリー・クイーン論"][amazonjs asin="4336061025" locale="JP" title="エラリー・クイーン 推理の芸術"]

 

全国翻訳ミステリー読書会

海外のミステリー小説専門の読書会です。 開催地は北海道から九州まで全国に広がっていて、多くの参加者にお楽しみいただいています。 参加資格は課題書を読み終えていることだけ。ぜひお近くの読書会にご参加ください。 また、読者が選ぶ翻訳ミステリー大賞、略して『どくミス!』を年に一回(4~5月)開催しています。 こちらも併せてお楽しみください。

0コメント

  • 1000 / 1000