第15回福井【私の唇は嘘をつく】読書会レポート(執筆者・藤沢一弘)

第15回福井読書会はジュリー・クラークの『私の唇は嘘をつく』(小林さゆり訳(二見文庫)を課題書に、訳者の小林さゆりさん、二見書房担当編集者の山本則子さんをゲストにお迎えし、華やかに開催いたしました。

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本書は、詐欺師のメグと、そのメグに恨みを抱くジャーナリストのキャット、二人の復讐劇とその行方を描いたサスペンスです。

今回は初参加の方も含め総勢12名での開催となり、メグとキャット、二人の女性の運命について語り合いましたので、いくつかピックアップしてご紹介いたします。

  • メグが訪れていた場所を地図で確かめながら読み、広大なアメリカなら詐欺師一人ぐらい簡単に隠れる事ができそう。
  • メグの車上生活する様子がうまく描かれていて、メグの強さが印象的だった。
  • 車上生活について映画『ノマドランド』を思い出し、アメリカで車上生活する人がいっぱいいる事に衝撃を受けた。
  • 同じく貧困と車上生活を描いたスーザン・ニールセンの『住所,不定』(岩波書店)を思い出した。
  • 最初は、復讐劇という事で怖いイメージがあったけど、意外に爽やか。
  • 読みながらメグのファンになった。メグとキャットを比較しながら読めて楽しめた。
  • キャットが小説を書いているとの設定に、もしかしてキャットによるフィクションが描かれていたりして、なんても思った。
  • 話の展開がスムーズ過ぎな気がしないでもないけど、メグが悪い男をやっつける姿はまさにスーパーヒロインで、映像化向きな作品(映画よりドラマ推奨)。
  • 全編にやるせなさが根底にあり、復讐が成功しても満たされたのだろうか。
  • メグがキャットにさよならを告げる場面が好き。メグやキャットのこの先を知りたくなる。

色々な感想が出ましたが、やはりメグが魅力的だという点では皆さん一致した感想だったかと思います。

そんなメグに対し、メグの母親が「女性ふたりが力を合わせれば向かうところ敵なし」と語る一方、キャットの母親は「男性のように考え、男性のようにチャンスを掴みなさい」と語っているように、それぞれ対比して描かれているのも興味深く、その辺りも含めた活発な議論も。

中でも、「呪いのようなものから解放され、自由になれるというテーマが描かれていたのが良かった」、「「女子の掟」が流行って欲しい」との意見がある中、「シスターフッドは大事だけれど危うさもあるのでは」、「女性に対する教訓となるようなものを厳しい目で描いて欲しい」など、昨今の#MeToo運動や強い女性が描かれた物語が増えている事もあり、率直な意見が交わされました。

それにしてもやはり女性を騙し弄ぶ男性というのは問題外。

そして本書にはダメ男、いえ、クズ男ばかり登場しますよね!

その中でもある登場人物が、クズ・オブ・クズとも言えるぐらいのクズ男として総攻撃をくらっていましたが、もしかして読み手によっては別の登場人物の方がクズだと思われるんじゃないでしょうか。

ちなみに参加者の1/3は男性参加者でしたが、クズ男しか出てこないからか、男性陣は皆、居心地悪そうでした。

ま、まさか自身に何か後ろ暗い事があるんじゃないでしょうね?(笑)



また、参加者からの疑問や質問に、訳者の小林さん、二見書房の山本さんも快く回答して下さりました。

物語の内容に係る事に関しては割愛いたしますが、小林さんからは、原著ではあまり違いが無いメグとキャットの語りについて、訳す上で気を付けた事、山本さんからは著者のジュリー・クラークの存在を知って出版にこぎつけるまでの裏話などを語って下さいました。

そして巻末の読書会向け案内については、原著でも実際に収められているとの事で、参加者の皆さんにもその内容について少し伺ったのですが、「読み終えた後、解釈の手伝いをしてくれて嬉しい」といった声がある一方で、「結構難しくて全然答えれそうにない」「実際に回答しようと思うと学校の宿題みたいな気分になる」といった声もありました。

もし、どこかで本書を課題書に読書会を開催されるところがあれば、上記の意見も参考にしてみて下さい。

ちなみに福井読書会は毎回ノープランで臨んでいるので、今回も、巻末の読書会案内は参考にさせてもらいましたが、言い方は悪いですが適当に進行させてもらいました(笑)。

最後、本書の中で「あなたにとって自由の価値は」といったセリフが出てくるのと、詐欺師の物語という事で、「自由の価値」もしくは「これまでついた嘘」について皆さんに質問をぶつけてみましたが、これはアバウト過ぎた質問だったなと反省しております。

それでも皆さん、「好きなお布団で眠れること」「コロナ禍でテレワークが進み、愛犬と一緒に過ごせるのが幸せ」といった意見を始め、「自由は何より大事だけれど衣食住があってこそ」「先立つものがある程度あってこそ」など、現実的な回答が多かったのには安心したような気になりました(笑)。

なお、著者の前作『プエルトリコ行き477便』を読まれている参加者も多く、「今回の課題書も良かったけど、前作もすごくいいんだよね」と熱い声が。

こちらも力強い女性たちの物語です。未読の方はぜひ手に取ってみて下さい。



そうそう、今回は読書会自体が初めて参加される方、普段は翻訳ミステリーどころか小説自体あまり読まないという方も参加者の中にはいらっしゃいました。

本会の後に開催しました懇親会でも話題に上がりましたが、そういった方の意見はとても新鮮に感じておりますし、初めての方がまた参加したいなと思える温かい会を目指しております。

「読書会には興味はあるけど怖いなぁ」と思われている方、取って食べたりしないので、気軽にご参加して下さいませ(笑)。



最後に訳者の小林さゆりさん、二見書房担当編集者の山本則子さん、遠路はるばる福井まで遊びに来て下さり、あらためて御礼申し上げます。

来年の春には北陸新幹線も福井まで延伸となり、東京からも訪れやすくなるかと思います、

観光がてらに、また是非遊びに来ていただけたらと願っております。



さて、次回の福井読書会は7/1(土)に開催する予定です。

課題書は世話人Fがこよなく愛する(ネオ)ハードボイルド作品を予定してります。

近日中にお知らせできるかと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

福井読書会世話人

藤沢 一弘(ツイッターアカウント @shaolon_wang

福井翻訳ミステリー読書会

https://fukui-honyaku-bookclub.hatenablog.com/

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