〈翻訳ミステリーお料理の会〉第2回調理実習レポート “ミントソース”なるもの(執筆者・芹澤恵)








それぞれの作品の訳者である田口俊樹さんと駒月雅子さんをゲストにお迎えし、今回も参加者のみなさんにはくじ引きで各調理台に分かれていただき、手順のおおまかな説明を聞いていただいたのち、実習スタートです。





ラム肉が冷めないうちに、試食に移ります。食べながら、ゲストのおふたりからはそれぞれの作品の読みどころや魅力について、お話をうかがいました。「ダールの魅力は、にわか成金を揶揄する“毒”にあるけれど、にわか成金を“セレブ”とか言ってもてはやす今はその毒は伝わりにくいのかもしれない」と田口俊樹さん。「ホロヴィッツはホームズ物語の精神を尊重するため十箇条のルールを自分に課して、そのうちに同性愛を持ち込まないとあるけれど、はっきり言って『絹の家』の読みどころは“萌え”」と駒月雅子さん。訳者ならではの鋭く明快な分析に、既読の参加者はもちろん、未読の方々もうなずくことしきり。さらに話題はメニューのことに。以前にイギリスでミントソースと遭遇して、あまりの不思議さに絶句した、という参加者の方から、「今回のソースのほうが断然おいしい」と言っていただいて世話人一同、各自3ミリぐらい鼻が高くなったかも。味の決め手は生姜ではないか、という鋭い分析も。

今回はサプライズを用意していました。「おとなしい凶器」では、主人公が食料雑貨店のサムに勧められてデザートにチーズケーキを買って帰ります。それにならって、森嶋マリさんがこしらえてきてくださったチーズケーキを戴きながら、質問タイムに。そこで、世話人一同が待ちかねていた質問が——「あの、『絹の家』のどこにミントソースが出てくるんでしょう?」。はい、ほんの一瞬ですが、まちがいなく出てきます。某所に乗り込むまえ、田舎の宿屋でホームズとワトスンが腹ごしらえをする場面。種明かしをすると、居並ぶ方々の顔に「なあんだ」と肩すかしを食ったような表情が……すみません、世話人一同のちょっとした悪戯心と思っていただければ。気になる方は、再読を。



というわけで、おかげさまを持ちまして、第2回調理実習も、無事に打ち上げることができました。今回は本の話題というよりも食べ物系の話題がいくらか多めの会となりましたが、本の話をしたりなかったみなさま、ラム肉のおいしさとミントソースの物珍しさのせいということで、ご寛恕いただければ。帰り際に何人かの方から、「おいしくてわりと簡単にできるとわかったので、うちでも作ってみます」と言っていただけたのは、何より嬉しいことでした。ミントソースなるもの、挑戦してみてよかったです。

それですっかりハラの坐った世話人一同、“本で読んで名前は知っているけれど、実体は不明”に今後も挑戦してみたいと意欲満々です。食材には旬があるため、定期開催はなかなか難しいところがありますが、なるべく早くまた、みなさまと食にまつわるミステリーとミステリーにまつわる食を探求していければと思っています。詳細が決まりましたら、またこのサイトなどを通じてお知らせをさせていただくつもりですので、しばしお待ちください。






芹澤 恵(せりざわ めぐみ)

翻訳者。〈翻訳ミステリーお料理の会〉世話人。食いしん坊兼呑み助。自称料理好き。ありものでこしらえるシンプルな料理(別名“手抜き”)を得意とする。訳書にウィングフィールド『冬のフロスト』、ヘインズ『クラッシャーズ/墜落事故調査官』、サーバー『傍迷惑な人々』他。


各地読書会カレンダー


これまでの読書会ニュースはこちら


[amazonjs asin="415071259X" locale="JP" tmpl="Small"]

[amazonjs asin="4150712603" locale="JP" tmpl="Small"]

[amazonjs asin="4041104513" locale="JP" tmpl="Small"]

[amazonjs asin="4488291066" locale="JP" tmpl="Small"]

[amazonjs asin="4488291074" locale="JP" tmpl="Small"]

[amazonjs asin="4167812193" locale="JP" tmpl="Small"]

[amazonjs asin="4167812207" locale="JP" tmpl="Small"]

[amazonjs asin="4334752543" locale="JP" tmpl="Small"]

全国翻訳ミステリー読書会

海外のミステリー小説専門の読書会です。 開催地は北海道から九州まで全国に広がっていて、多くの参加者にお楽しみいただいています。 参加資格は課題書を読み終えていることだけ。ぜひお近くの読書会にご参加ください。 また、読者が選ぶ翻訳ミステリー大賞、略して『どくミス!』を年に一回(4~5月)開催しています。 こちらも併せてお楽しみください。

0コメント

  • 1000 / 1000