第33回(シンジケート後援第15回)せんだい読書会レポート

2017.07.08 せんだい探偵小説お茶会『スペイン岬の秘密』読書会報告(文責:クイーン・ファン)

第一幕

 せんだい探偵小説お茶会がめでたく5年目を迎え、エラリー・クイーン作品の読書会が完全に年の恒例行事に定着した仙台!(昨年も同じような文句でしたが…ひと味違います)

 今回企画したのは、『スペイン岬の秘密』(角川文庫、訳:越前敏弥・国弘喜美代)でした。

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 先ほど、ひと味違うと語ったのには訳があります。な、なんと! せんだい探偵小説お茶会で、初の満席となったのであります。

 ホストが考えていた定員数は15名でしたが、18名までの(な、なんと初参加が4名!)応募がありましたので、そこで締め切らせていただきました。他県に比べたら少ないかもしれませんが、時間内でミステリの深淵に触れるには限界の数であったと思います。

 さて、本題に入って、これまでの読書会で取り上げたクイーン作品は、ファンクラブ以外のランキングに取り上げられたものが多かったのですが、『スペイン』はランキングにはいったことはありません(『フランス白粉の秘密』もですね)。ですが1983年EQFC(エラリー・クイーン・ファンクラブ)国名シリーズ+1アンケート7位、1997年EQFC全長編アンケート16位、2014年EQFC国名シリーズ+2アンケート6位と、クイーンファンの中では、評価が高い作品であります。

 梅雨まっただ中ではありましたが、夏日の暑さ厳しい中、せんだい探偵小説お茶会で、どのような評価になるのか? 参加者の多数から絶賛の声が上がるのではないか? ホストが読んでいく内に感じた漠然とした不安は、杞憂に終わるのか? と思案しながら、会場で参加者と向きあうこととなりました。

第二幕

 毎回、クイーン読書会では、作品にちなんだお菓子が出てきます。福島読書会の世話人の方からは、クイーンだから二人で半分にできる菓子が差し入れされました。ホストからは「スペイン産の材料が使われた菓子」でした。

 お菓子を探し回ったのですが、見つけることができませんでした。提供してみると、ひねりが少なく、不完全燃焼気味でありました。言い訳にしか聞こえませんが、このお菓子に対する情熱の少なさも、作品に対して感じた漠然とした不安の表れだったのかもしれません。

 閑話休題。

 さて、自己紹介を終えて読書会は本書の内容へと。参加者の感想は以下のようなものでした。

「おいてけぼりにされた。納得しないうちに話が終わった」

「びっくりするくらい何も憶えていない。1回読んでいたことも忘れていた。読んでいる間は楽しいのに……」

「チャイナの変化球から原点に戻ろうとしたのでは。舞台装置と人物の配置から作者も納得のいく推理ができた作品とは思えるが、作者が迷っているのではないか」

「電話の一人芝居に感心。犯人が下着を身につけたのだろうか?」

「被害者をエラリーが蔑んでいるように思えた」

「犯人は推理しなくても、なんとなくそうかなと思っていた。最初のローザの強気ですごい女子だなと思った。服を脱がしたところがチャイナのことを思い出しました」

「あまりにも、手掛かりがあからさますぎて、犯人がわかりやすかった。でも推理というよりは手掛かりからの感じで犯人を当てた。手掛かりを与えすぎではないか」

「エラリーは母親がいないことから、許しを知らない。だから本作品では、人間的なものがない姿が見られた。ライツヴィルものに繋がる要素も見られた」

「最初の場面が大変だったのに、失踪した人をそのあと誰も心配していない。だから……」

「登場人物紹介が面白い。ある登場人物の紹介が、かなり非道い」

「○○○○○○○夫人のいわれようが非道い! 死んでもなお印象に残るなんてすごい!」

「謎解きに関しては評判が高いだけある。しかし、今の読者にはすぐわかるのではないか。ものたりなさを感じた。もっとエラリーにひっかかる影があると良い」

「二組の夫婦の描き方のギャップが面白く読めた」

「他のクイーン作品に比べると物足りないと思った。警視がいないためかもしれない。冒頭から下降していく感じ。徹底した理論家と登場人物紹介で出ているので、それを作者が行いたかったのかな」

「うまくいいくるめられている感じがした。裸なのにマントや帽子、ステッキが残されていた謎が、二段のデコレーションケーキが一段になってしまったような気がして残念だった」

「意外性から見たらいまひとつかもしれないが、外部からか、屋敷内からかを考え、逃走経路の絞り込む論理には隙がないように思える」

「犯人の詰めは甘いんじゃないか」

第三幕

 今回も、感想発表の終わりには、お茶会の重鎮T氏からインタビュー形式の質問がありました(実は前回の読書会でお会いした際に予告されていました)。

「プロットが穴だらけである。推理に厳密性を欠く。魅力的な人物がいない(探偵が不愉快であることも含む)。文章が下手である。ユーモアに乏しい。スペイン岬はこの五つの要素を全て兼ね備えた作品である。その論証のためにインタビューをしたい」とはじまり,ホストが登場人物に扮して約25分のインタビューが行われました。その内容は、ホストが感じていた不安を大きく揺さぶり、作品世界を崩していきました。不安を大きくされるのではないかと思いましたが、ホストは清々しい気持ちになることができました。「スペイン岬」に激震を与えた主要な質問を簡易版でお届けします。

【犯人へのインタビュー】

「救いたい人物のための犯行が動機ではありますが、自分が疑われないようにするために取った行動のために、周りの人たちに容疑が向けられてしまったのではないですか」

「……すみません」

「時間や場所を限定している割には、計画的な犯罪とは思えないほど杜撰なところが多々見えるのではないですか」

「………動転していたからだと思います」

などなど。

【探偵へのインタビュー】

「この作品は、探偵であるあなたに文責があると考えてよいのですね」

「…はい」

「人間的要素を数学に置き換えて考えたがるあなたにとって、この事件の最大の問題の解明を始めるにあたって、考えられる説は五つしか考えられないとおっしゃいました。それは、本当ですか?」

「………………………」

「あなたのお得意な論法、この問題について考えられる説は、A、B、Cの三つしかない。A説とB説は間違いである。したがって、正解はC説であるという類いのものは、数学の問題ならいざ知らず、人間の意思や行為に関わるような問題について、ある現象を説明する説をすべて挙げつくすことなどまず不可能だと思うのです。三説しかないと思っていても、必ずD説やE説という見落としがあるものです。繰り返し言います。考えられる説は五つしかないというというのは本当でしょうか?」

「…………………………………」

 その後、夏目漱石の『吾輩は猫である』のエピソードを例に、論理的な可能性の検討について推論の信憑性を疑わせるには十分であることを指摘され、探偵はダウン!

 しかし探偵は膝が震えるのをこらえて、なんとかテンカウント以内に立ち上がった!

「○○○○○○○夫人の表現が非道すぎますね。なにか個人的な恨みでもあったのですか?」

「……チロル事件(本作品に名前だけ出てくる未解決事件)の関係者の一人が○○○○○○○夫人に大変似ていまして、その人物に煮え湯を飲まされ、そのストレスを○○○○○○○夫人に向けてしまったのかもしれません」

 だが、次に致命的ともいえる痛打が繰りだされ、探偵はここでノックアウトとなりました。

 T氏のおっしゃることは、もっともでした。私が漠然と感じていた不安(プロットの穴と推理の厳密性)が明確になったところで、インタビューの終了となりました。

第四幕

「あなたがもっとも好きなキャラクターと場面と台詞は?」

 キャラクターと場面と台詞はリンクしているものがほとんどでした。ここでは、好きなキャラクターを挙げていただいた人数と場面と台詞を合わせた形でお伝えします。

 エラリー(4人)「犯人を告発するシーン」「眼鏡をかけている理由」

 ティラー(4人)「できすぎるところ」「謙虚なところ」反面、嫌いな人も何人か。「できすぎるところ」「きざな台詞」

 ペンフィールド(2人)「エラリーに負けていないところ」

 いない(1人)「かんべんしてください」

 マン夫妻(1人)「喧嘩のシーン」

 ローザ(1人)「強気な行動に出たところ」

 ウォルター・ゴドフリー(1人)「男らしさと優しさ。実はティラーがウォルターでティラーの影武者がウォルターだったのではないか」

 ステラ・ゴドフリー(1人)「夫に正直に話したところ」

 マクリーン判事(1人)「70歳を超えて、寝ずに頑張っているところ」

 ジョセフ・マン(1人)「裸一貫でのし上がったすごい男。一冊の本になりそう」

 コンスタブル夫人(1人)「最後の文章が綺麗」

 他にセシリアが暴れるところや解決シーンも出てきました。

 ホストは、思いもよらなかった意見や考えを聞くことができ、読書会の良さを再度実感することができました。

 参加者の皆さんが述べ終わったところで、2時間の読書会終了時間となりました。1冊の書物で、ぎりぎりの時間に終わったのは初めてのことでした。話したりないことがそれぞれに有り、懇親会へと移ると、ビールや他の飲み物と料理をいただきながら、ミステリ談義で盛り上がることができました。

 最後にT氏から「嫌いな作家なのに、インタビューの質問を考えるのに結構な時間が掛かったよ」と聞き、「嫌いと言いつつ実は愛に変わっているのではありませんか」と答えると素敵な微笑を見せていただきました(本当にありがとうございました!)。

 ホストは、今回も皆さんのおかげで、濃密で夢のように充実した時間を過ごすことができ、幸甚でありました。

 参加された皆さんが正直な意見を語ってくれたことで、魅力とは何かを再度深めていく必要があると確認できました。今後も益々、ミステリの深淵に触れて行きたいと思います。

終幕

アンケート結果

 今回、読書会でアンケートに16名の方々にご協力いただき、結果が以下のようになりました。



せんだい探偵小説お茶会、それぞれのアンケート結果





























































































































































 
 プロット
 サスペンス
 解決
 文章
論理性
 感動・余韻
参加者
 7
 4
 9
 6
 9
 8
 参加者
 7
 6
 8
 7
 8
 7
 参加者
 10
 8
 8
 6
 8.5
 7.5
 参加者
 7
 3
 8
 6
 6
 6
 参加者
 7
 7
 8
 7
 8
 6
 参加者
 5
 5
 7
 5
 8
 5
 参加者
 7
 8
6
 6
 7
 5
 参加者
 4
 5
 4
 3
 4
 1
 参加者
 6
 8
 8
 8
 7
 8
 参加者
 6
 6
 8
 5
 7
 6
 参加者
 7
 7
 8
 6
 8
 5
 参加者
 6
 7
 8
 8
 6
 7
 参加者
 6
 6
 7
 5
 7
 5
 参加者
 6
 7
 5
 7
 4
 6
 EQⅢ
 6
 7
 9
 8
 9
 9
 ホスト
 6
 4
 10
 8
 10
 7

 

せんだい探偵小説お茶会アンケートの平均点






















 
プロット
サスペンス
解決
文章
論理性
感動・余韻
平均点
6.4
5.9
7.6
6.3
7.3
6.2

EQFCアンケートの平均点






















 
プロット
サスペンス
解決
文章
論理性
感動・余韻
平均点
7.7
6.2
8.1
6.2
8.4
6.9



 な、なんと! クイーンに優しいせんだい探偵小説お茶会が、とうとうEQFCより辛い点数をつけてしまいました。次回のエラリー・クイーン祭りでのアンケート結果も楽しみの一つとなりました。

 以下は課題書既読のかたにお楽しみいただけますように、「飯城勇三氏のアンケート回答(Queendom83より抜粋)」と「ホストのあれこれ」をPDFファイルにまとめ、リンクするかたちにいたしました。


 

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