札幌『ジョニーは戦場へ行った』読書会レポート(執筆者:畠山志津佳)

札幌読書会は10/19に『ジョニーは戦場へ行った』(ダルトン・トランボ作/波多野理彩子訳/角川新書)の読書会をオンラインで開催しました。


『ジョニーは戦場へ行った』は、戦争で目、耳、鼻、口、そして四肢を失った青年ジョーの内面を描いた物語です。映像化もされましたので、タイトルだけは知っているという方も多いのではないしょうか。

1939年に書かれた小説ですが、今、この混沌とした世界情勢の中で新訳が発売されたのは大きな意義があると思い選書しました。ミステリー小説ではなくても面白そうだったら、これは読まねばと思ったら迷わず選書してしまう、それが札幌読書会世話人ズ。

読書会には訳者の波多野さんも同席下さり、時に真面目に、時に脱線しつつ、楽しく語り合うことができました。


まず共通していたのが、「辛い読書を覚悟したけれど意外にそうでもなかった」。

一個の肉塊と化し、音も光も他者との交わりも一切ないジョーの意識は現在と過去を行ったり来たりします。

なんでも手作りしてお金はなくても豊かな心で暮らしていた実家、思春期のやらかしちゃったエピソードなどが実に鮮やかに生き生きと語られており、ベッドに横たわる肉塊の悲惨さをほんのひととき忘れて瑞々しい情景に身を委ねる...そんな読書体験をされた方が多かったようです。


また新訳ということもあり、大変読み易いというお声も多かったです。

昔の版は注釈が多く入っていたそうで、読むのに手こずったなぁと思い出されているかたもいらっしゃいました。

古い作品を訳す時に現代的な言葉をどこまで使ったらいいのかという話題で少々脱線もあり。 

ちなみに訳者の波多野さんは、息子さんの年齢が主人公ジョーとあまり変わらないこともあり、息子さんの日常の話し言葉を参考にして訳されたそうです。

そんなこんなで一時的な結論:今の人が読み易いのが一番!!(笑)


もうひとつ皆さんが口々に仰ったのは「怒りのパワーがすごい」。

国が決めたことに従って戦地に行き、結果、生きる屍と化したジョー。

戦争にさえ行かなければ今頃は故郷で家族や恋人と普通の日々を送れていたのに、自分の足で歩いて、仕事をして、見て聞いて話して食べていたのに、どうしてくれるんだよ、返してくれよ、俺の体と人生を返してくれよというジョーの怒りに皆さん圧倒されたようです。

読む前にはどれほど悲惨な物語かと想像していたけれど、いやいやこれは作者トランボの怒りの文学だと。

また絶望的な状況でも思考をやめないジョーの姿に「考えてこそ人間」「極限状態でどう生きるか」「絶望よりも戦う強さ」などを感じ取られたご意見が多かったです。

「民主主義を守るために戦え」という為政者の言葉に苦々しい気持ちになったというお声もありましたね。民主主義ってなんだろう?


読書会ならではの”なるほど”もありましたのでご紹介しましょう。

外部との交わりが不可能だったジョーですが、看護師が胸にMERRY CHRISTMASと書いたのがきっかけでモールス信号を使って意志を伝えようとします。

この時のやりとりで Who are you? と出てくるのですが、この一文について参加者さんから訳文とは少し違うニュアンスの解釈があり、訳者の波多野さんも「なるほどーー!それもアリですね!」と膝を打っていらっしゃいました。(オンラインだから膝は見えてませんが笑)

興を削ぎかねないので具体的に披露できないのが残念です。機会があればお読みになった方と詳しくお話ししたいものです。


さて、お気づきになった方はいらっしゃるでしょうか。

タイトルは『ジョニーは戦場へ行った』ですが、主人公の名前はジョーです。

どーゆーこと?ジョニーのことを愛称でジョーって呼んでるとか?と迷走しておりましたが、読書会にあたり他の文献もあたられた方(素晴らしい!)から、第一次世界大戦の時に兵士募集のための宣伝文句が”Johnny Get Your Gun”だったんですよと教えていただきました。この宣伝でジョニーという名前は米国で一種の憧れの対象にもなっていたようです。

本書の原題は”Johnny Got His Gun”。戦意高揚の動きに対するトランボの皮肉でしょうか。

というわけでタイトルのジョニーと主人公の名前は全然関係ないようですね。

読書会がなかったら完全スルーでなにも知ることなく終わってしまうところでした。


今回の新訳は新書で発売されています。

新書と言えば教養、実用といったイメージだったので参加の皆さんも不思議な気がしていたそうです。ひょっとして娯楽小説ではなく新書の売り場にあることで「今読むべき教養書」といったイメージで訴求させたいのかも、という考察もありました。


もし、興味があるけど辛い気持ちになりそうと戸惑っている方がいらしたら、どうかあまり心配せずまずはページを開いてみて下さい。

読書会にお集まりの皆さんからは口々に「読んでよかった」と言っていただきましたので、きっと期待を裏切ることはないと思います。


ちなみに!

こういう小説でもやはり”推せる”キャラというのはいるものです。

ジョーの回想に出てくるパン工場のホセ。彼の言動に誰もがほんわかする愛すべきミスターイノセンスです。一人の参加者さんが「私、ホセが好きなんです!」と仰った時の全員の渾身の頷きたるや(笑) これからこの本を手に取るであろう方、ホセとの出会いもお楽しみに。


『ジョニーは戦場へ行った』、ぜひたくさんの方に読んでいただきたい一冊です。

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