第18回大阪翻訳ミステリー読書会レポート:ジャニス・ハレット『アルパートンの天使たち』(山田蘭訳)

2025年3月2日(日)、ジャニス・ハレット『アルパートンの天使たち』(山田蘭訳 集英社文庫)を課題書として、第18回大阪翻訳ミステリー読書会を開催いたしました。


ジャニス・ハレットのデビュー作でもあった前作『ポピーのためにできること』は、SNSやテキストメッセージをパズルのように組み合わせて複雑な事件を解き明かすという手法が大きな話題を呼び、新人作家でありながら見事に〈このミス〉や〈ミステリが読みたい!〉の上位ランクインを果たしました。

本作『アルパートンの天使たち』では、その手法が一層パワーアップし、メールのやりとりやSNSにくわえて、なんと小説や脚本まで挿入して、謎に包まれた殺人事件がさまざまな角度から語られていきます。そしてついに真相があきらかになったかと思いきや、恐るべき事態が……最後の最後まで目が離せない作品です。

――2003年のロンドン。自らを天使だと信じるカルト教団《アルパートンの天使》の信者数名の凄惨な遺体が見つかった。教団の指導者であったガブリエルが犯人として逮捕されたが、ガブリエルは一切罪を否定し、いまだ真相はあきらかになっていない。

18年後、犯罪ノンフィクション作家のアマンダは、事件についての本を出版するために取材をはじめる。秘書のエリーに助けられながら、事件の解決に尽力した警視のドンやソーシャルワーカーのソニアの協力を得て、事件現場で赤ちゃんを抱いていた未成年の男女を見つけ出そうとあらゆる手を尽くす。だがそのとき、同業者のオリヴァーも同じ事件を題材として本を書こうとしていることを知らされる。なんとしてもオリヴァーには先を越されたくない――

参加者の感想でもっとも多かったのは、

・登場人物が多くて最初はついていくのに苦労したけれど、中盤からスピードアップするにしたがって引きこまれ、最後の怒濤の展開に圧倒された

というものでした。そのほか、「作者のたくらみがすごい」「伏線がちゃんと回収されることに感心した」という意見も。そう、最後まで読んでから最初にもどって読み直すと、「ここではっきり言ってるやん!」という箇所があるのです。

また、地の文がない形式に一瞬とまどったという意見もありましたが、みなさん読み進めるうちに物語の流れをつかむことができたようです。

参加者の半分弱が前作〝ポピー〟も読んでいましたが、どちらがおもしろかったか、どちらが好きかという点は意見が分かれました。個人的な感想としては、本作の方が最初から殺人事件が明示されているので、物語にスムーズに入れるように思います。一方、おかしみは〝ポピー〟の方が強かったかな? とも。

ちなみに、〝ポピー〟では「やっほー」でおなじみのイッシーがかなりの強者でしたが、本作ではアマンダの仕事仲間のミニーがとんでもないことをやらかします。毎度アマンダに「こんにちは、美人さん!」と呼びかけるミニーですが、ジャニス・ハレットの作品では呼びかけのクセが強い人物は要注意と言えましょう。

もちろん、事件の真相を追う主人公アマンダに対する感想もたくさん語られました。実力派ノンフィクション作家ですが、性格には少々強引な面があるため、「性格悪い」「信用できないと思った」という感想もちらほら。けれども「複雑な過去を克服し、必死で頑張っている」と応援する声もありました。

そんなアマンダを助けるエリーについては、「信用できる」と好意的な視線を向けていた人が多かったようです。この小説は、アマンダの取材内容をエリーが書き起こした記録が大半を占めているのですが、暴走するアマンダをたしなめたり呆れたりするエリーの細かなツッコミがフックになって物語を俯瞰する視点が生まれ、それが最後のオチにもつながっていきます。

しかし、アマンダの宿敵であるオリヴァーについては、「頼りない」「どうでもいい」という辛口な意見ばかり……いま思い返しても、応援した、あるいは好感を持ったと語っていた人はいなかったような(いたらスミマセン)。とはいえ、オリヴァーはこの小説の要となる重要な媒介者であることはまちがいありません。


あと、教団の指導者ガブリエルはルックスも話し方も魅力的で、誰もがみな心を奪われる詐欺師として描かれています。そのくだりで世話人の私は、〝稀代の悪〟と呼ばれた平成の某お騒がせタレント(最近も話題になりましたが)が頭に浮かんだのですが、参加者のみなさんから「イメージちがう~」とブーイングが出ました。


ひととおり感想を言い終えたあとは、いつものようにおすすめ本を紹介しあう時間に。

今回は、本作のようなモキュメンタリー(ドキュメンタリーの形式を用いたフィクション)やノンフィクションといった課題書に関連する本から、いま気になっている本まで、バラエティに富んだ本を紹介いただきました。

・ミシェル・マクナマラ『黄金州の殺人鬼――凶悪犯を追いつめた執念の捜査録』 (村井理子訳 亜紀書房) ←こちらは本作の着想元のひとつとして謝辞で言及されています。

・ダニエル・スウェレン=ベッカー『キル・ショー』(矢口誠訳 扶桑社)

・ジョセフ・ノックス『トゥルー・クライム・ストーリー』(池田真紀子訳 新潮社)

・イライザ・クラーク『ブレグジットの日に少女は死んだ』(満園真木訳 小学館)

・ネイサン・スロール『アーベド・サラーマの人生のある一日——パレスチナの物語』(宇丹貴代実訳 筑摩書房)

・アン・クリーヴス『大鴉の啼く冬』(玉木亨訳 東京創元社)のシリーズ

・柚木麻子『BUTTER』(新潮社)

・有吉佐和子『悪女について』(新潮社)

そして読書会が終わると、お楽しみの懇親会へ(自由参加)。シンガポール料理を心ゆくまで堪能しました。なかでも、カニをチリソースで丸ごと炒めた名物料理〝チリクラブ〟が絶品で……いや正直なところ、チリソースをつけて食べる揚げパンにみんな夢中になり、一人一個では足りない!という声が続々とあがりました(いま思えば、コースに追加料金を払えば追加できたのかも)。

というわけで、「揚げパンもっと食べたかった!」という満場一致の感想で幕を閉じた、充実した読書会となりました。参加者のみなさま、ありがとうございました。

次回は7月13日(日)に、ティム・オブライエン『虚言の国』(村上春樹訳)を課題書として対面で開催します。今回の読書会でも話題にのぼった一冊です。

一か月前ごろに受付を開始しますので、どうぞお気軽にご参加ください。

大阪読書会世話人 信藤玲子

全国翻訳ミステリー読書会

海外のミステリー小説専門の読書会です。 開催地は北海道から九州まで全国に広がっていて、多くの参加者にお楽しみいただいています。 参加資格は課題書を読み終えていることだけ。ぜひお近くの読書会にご参加ください。 また、読者が選ぶ翻訳ミステリー大賞、略して『どくミス!』を年に一回(4~5月)開催しています。 こちらも併せてお楽しみください。

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