第20回大阪翻訳ミステリー読書会レポート(マイクル・コリータ『穢れなき者へ』(越前敏弥訳 新潮文庫)
2025年10月24日(金)、第20回大阪翻訳ミステリー読書会を開催いたしました。
祝・記念すべき第20回目!! というわけで、課題書のマイクル・コリータ『穢れなき者へ』(新潮文庫)の翻訳者である越前敏弥先生にもご参加いただきました。
物語の舞台はアメリカのメイン州。島にもどってきたイズレルは不審なクルーザーが海を漂っているのに気づく。ボートで近づいてクルーザーに乗りこむと、七人の死体が転がっていた。しかも七人のうちふたりは互いに対立する上院議員の候補者だった。
島で唯一の保安官補である叔父のスターリングが警部補サラザールを連れてイズレルを訪ねる。イズレルは自らの父親を殺した罪でスターリングに逮捕されて服役していたのだ。スターリングはまたもイズレルを逮捕するつもりなのか?
その頃、隣の島では、十二歳の少年ライマンがいつものように父親から叩きのめされていた。身を隠すために隣の空き家に逃げこむと、そこには手斧を握った血まみれの若い女がいた……
全員の自己紹介から読書会がスタート。ありがたいことに、はじめて大阪読書会に来てくれたかたもいらっしゃいました。そのあと、全体的な感想の語り合いに進みます。
・父親から暴力を振るわれるライマンのパートが読んでいてつらかった
・イズレルとライマンに悪いことが起きませんようにと祈った
・イズレルは鬱々しているし、ライマンの章は暗い気分になったけれど、ハチェット(手斧の女)が登場してから、どんどん話が進んでいった
・まさにページターナーで、先の展開が気になって一気に読んでしまった
・女性であるサラザールの存在がいまの時代を反映していると感じた
・ライマンとハチェットの関係が徐々に変化していく描写が心に残った
ライマンが父親からひどい虐待を受けながらも、傷を負ったハチェットを救おうとする姿に心を打たれたという声が大勢を占めました。
物語の舞台となる島の設定に着目した人も複数いらっしゃいました。
・漁業が衰退し、寂れていく島の様子に考えさせられた(神戸の某島を思い出したという意見も)
・島の住民はダール以外嫌な人ばかりだったが、貧しくなるにつれて陰湿になったのだろうか
「いまの日本みたい」という感想も。島の良心といえるダールに救いを感じた人も多かったようです。
島の住民から嫌疑をかけられ、窮地に陥るイズレルの前に、私立探偵カルーソがあらわれます。唐突にケネディ大統領を暗殺したオズワルドの話をはじめ、なぜか警察の動きも把握している謎めいた男、カルーソについてもさまざまな感想が述べられました。
・イズレルの敵なのか、味方なのかが気になった
・いったい何者? と読者を惹きつける書き方が上手だった
そして参加者からの質問について、越前先生にお話を伺いました。
・どうしてこの邦題になったのか?
→原書のタイトル〝AN HONEST MAN〟は、あきらかにイズレルを指しているが、邦題を『穢れなき者へ』にすることによって、イズレルのみならず、より多くの登場人物を抱合することができたのではないか。さらに「穢れなき者」で終わらず、「へ」をつけたことによって、メッセージ性と両義性も兼ね備えている。
この邦題は新潮社の担当編集者の竹内さん(翻訳ミステリーシンジケートYouTube配信「出版社イチオシ祭り」にも出ていただきました)と話し合って決定されたそうです。まさに海のように広くて深い題になったのではないでしょうか。
そのほか、十二歳の少年であるライマン、ライマンより年上で成人女性に近い年齢のハチェット、正体不明の謎の男カルーソ、といったそれぞれの登場人物にふさわしい口調をどういうふうに決めたのか、原文ではイタリックで強調されているところを翻訳ではどう反映したのかなどを教えていただき、参加者のみなさまも真剣に聞き入っていました。
マイクル・コリータの過去作『Those Who Wish Me Dead』は、アンジェリーナ・ジョリー主演の『モンタナの目撃者』として映画化されています。
この映画を観た人も複数おられ、危機に陥った少年をおとなが助けるというモティーフが共通しているという指摘もありました。
弱冠22歳の若さで『さよならを告げた夜』(越前敏弥訳 早川書房)でデビューし、まだ40代であるにもかかわらず、これだけ数多くの作品を世に送りこんできたマイクル・コリータ。次作以降もどんな物語を届けてくれるのか、おおいに期待できますね。
最後は毎度おなじみのオススメ本のコーナー。今回は「海」をテーマとして、以下のような作品が挙がりました。
・セバスチャン・フィツェック『乗客ナンバー23の消失』(酒寄進一訳 文春文庫)
・デイヴィッド・ウィーズナー『漂流物』(BL出版)※文字のない絵本です
・スチュアート・タートン『名探偵と海の悪魔』(三角和代訳 文春文庫)
・シェルビー・ヴァン・ペルト『親愛なる八本脚の友だち』(東野さやか訳 扶桑社文庫)
今回の舞台がアメリカのメイン州であったことから、この本を勧めてくれた人も。
・渡辺博史『ミステリで知る全米50州』(早川書房)
メイン州を舞台とするミステリーとして、『リトル・クロウは舞いおりた』や『誰も悲しまない殺人』などが紹介されているようです。また、越前先生がメイン州を舞台とするミステリーとして『ジェシカおばさんの事件簿』を挙げていただきました。
ミステリーが山ほどあるニューヨーク(ニューヨーク州)やロサンゼルス(カリフォルニア州)では、いったいどんな作品が紹介されているのかも気になるところ。
読書会のあとは、ネオンが輝く北新地に移動して懇親会へ。ここでも海がテーマということで土佐の鰹を堪能いたしました。
次回の読書会は2月から3月を予定しています。またも海、もしくは魚がキーになるかも…?(匂わせ)
翻訳書やミステリーをあまり読んだことがないというかたも大歓迎ですので、ぜひお気軽にご参加ください。
大阪読書会世話人 信藤玲子
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