翻訳ミステリー大賞を予想する その2

前回は、第七回翻訳ミステリー大賞(4月2日発表)の候補作を短くご紹介しました。これから読もうと考えている人に向けて書いたつもりですが、そういうことを意識すればするほどどう書けばいいのかわからなくなってしまいますね。なかなか難しいものです。今回は、これら候補作の中からどの作品が大賞の座を射止めるのか、というのを私なりに予想したいと思います。まずは、第一回から第六回までの受賞作と候補作を見てみましょう(●印が受賞作)。第一回(2009年)●『犬の力』ドン・ウィンズロウ/東江一紀(訳)『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』スティーグ・ラーソン/ヘレンハルメ美穂・岩澤雅利(訳)『ミレニアム2 火と戯れる女』スティーグ・ラーソン/ヘレンハルメ美穂・山田美明(訳)『川は静かに流れ』ジョン・ハート/東野さやか(訳)『グラーグ57』トム・ロブ・スミス/田口俊樹(訳)第二回(2010年)●『古書の来歴』ジェラルディン・ブルックス/森嶋マリ(訳)『陸軍士官学校の死』ルイス・ベイヤード/山田蘭(訳)『音もなく少女は』ボストン・テラン/田口俊樹(訳)『卵をめぐる祖父の戦争』デイヴィッド・ベニオフ/田口俊樹(訳)『フランキー・マシーンの冬』ドン・ウィンズロウ/東江一紀(訳)第三回(2011年)●『忘れられた花園』ケイト・モートン/青木純子(訳)『犯罪』フェルディナント・フォン・シーラッハ/酒寄進一(訳)『夜の真義を』マイケル・コックス/越前敏弥(訳)『二流小説家』デイヴィッド・ゴードン/青木千鶴(訳)『アンダー・ザ・ドーム』スティーヴン・キング/白石朗(訳)第四回(2012年)●『無罪 INNOCENT』スコット・トゥロー/二宮馨(訳)『毒の目覚め』S・J・ボルトン/法村里絵(訳)『解錠師』スティーヴ・ハミルトン/越前敏弥(訳)『深い疵』ネレ・ノイハウス/酒寄進一(訳)『罪悪』フェルディナント・フォン・シーラッハ』/酒寄進一(訳)『湿地』アーナルデュル・インドリダソン/柳沢由実子(訳)第五回(2013年)●『11/22/63』スティーヴン・キング/白石朗(訳)『ゴーン・ガール』ギリアン・フリン/中谷友紀子(訳)『シスターズ・ブラザーズ』パトリック・デウィット/茂木健(訳)『緑衣の女』アーナルデュル・インドリダソン/柳沢由実子(訳)『冬のフロスト』R・D・ウィングフィールド/芹澤恵(訳)『遮断地区』ミネット・ウォルターズ/成川裕子(訳)『コリーニ事件』フェルディナント・フォン・シーラッハ/酒寄進一(訳)第六回(2014年)●『秘密』ケイト・モートン/青木純子(訳)『もう年はとれない』ダニエル・フリードマン/野口百合子(訳)『容疑者』ロバート・クレイス/高橋恭美子(訳)『その女アレックス』ピエール・ルメートル/橘明美(訳)『ゴーストマン 時限紙幣』ロジャー・ホッブズ/田口俊樹(訳)受賞作にしろ候補作にしろ、同じミステリーとはいえ、さまざまな分野からのセレクトとなっていることがわかりますね。これといった傾向は見られず、バランスの取れている印象があります。これだけで予想するのはちょっと難しいかなあ。では次に、これら受賞作および候補作が「このミステリーがすごい!」でどの程度の順位だったのかを確認してみましょう(このミス順位は10位以上の分のみチェックしています)。2009年(5/5)●『犬の力』 1位『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』 2位『ミレニアム2 火と戯れる女』 9位『川は静かに流れ』 7位『グラーグ57』 6位2010年(4/5)●『古書の来歴』『陸軍士官学校の死』 8位『音もなく少女は』 2位『卵をめぐる祖父の戦争』 3位『フランキー・マシーンの冬』 4位2011年(4/5)●『忘れられた花園』 9位『犯罪』 2位『夜の真義を』 10位『二流小説家』 1位『アンダー・ザ・ドーム』2012年(3/6)●『無罪 INNOCENT』 3位『毒の目覚め』『解錠師』 1位『深い疵』『罪悪』『湿地』 4位2013年(6/7)●『11/22/63』 1位『ゴーン・ガール』 9位『シスターズ・ブラザーズ』 4位『緑衣の女』 10位『冬のフロスト』 3位『遮断地区』 2位『コリーニ事件』2014年(3/5)●『秘密』『もう年はとれない』 5位『容疑者』『その女アレックス』 1位『ゴーストマン 時限紙幣』 3位このミス1位作品が受賞したのは2回、逆に10位内にランクインしなかった作品が受賞したのも2回です。そして、候補作中このミス10位内に入った作品の割合を見ていくと、最近は、あまり相関がない傾向も見られます(とはいえまだ6回ですから傾向というほどのものではないかもしれません)。では、今回の候補作とこのミス順位の関係を確認してみます。2015年(3/5)『偽りの楽園』『悲しみのイレーヌ』 2位『ゲルマニア』『声』 5位『もう過去はいらない』 6位いかがでしょうか。このミス10位内作品の割合は昨年と同様なのですが、今回は今までと異なる傾向があります。それは、このミス1位作品が候補に挙がっていないということです。過去6回で、このミス1位作品が候補に挙がらなかったのは、2010年の第二回のみです。そして、この回の受賞作は、候補作中唯一10位内に入らなかった『古書の来歴』でした。これに倣うなら、今回の受賞作はおそらく『偽りの楽園』または『ゲルマニア』ということになります。しかし予想に2作品も挙げてしまっては、完全な予想とはいえません。やはりここはひとつに絞るべきでしょう。ということで、第七回翻訳ミステリー大賞受賞作、私の予想は……
となります。絞った理由? 理由はもうアレですよ。好み。2作品ならべてどっち? って聞かれたら『偽りの楽園』を選ぶよってことです。好きな順で言うなら、他の候補のほうが上なんですが、好きな作品を予想に挙げるのは芸がないですからね。一応データ(のようなもの)を考慮に入れて、最後にちょっとだけ好みを入れて予想してみたというわけです。みなさんの予想はいかがでしょうか。こうやってあれこれ考えてみるのも、賞を楽しむ方法のひとつなのではないかと思います。結果がわかるのは今週土曜日(4月2日)です。私の予想は当たるのでしょうか。発表が楽しみです!【追記 2016/03/29 12:26】『偽りの楽園』を選んだ理由として、好みではなくもう少しもっともらしい理由をつけるなら、この作品の主な舞台がスウェーデンである、ということがありますね(今回の授賞式会場がスウェーデン大使館)。いや、そんなにもっともらしくもないでしょうか……。でもまあこういう符号めいたこともけっこうあるんじゃないかなーと。そんな気がします。※当たったら誰か何かくれないかなあ(ぼそっ)  あ、読者賞もお楽しみに!

全国翻訳ミステリー読書会

海外のミステリー小説専門の読書会です。 開催地は北海道から九州まで全国に広がっていて、多くの参加者にお楽しみいただいています。 参加資格は課題書を読み終えていることだけ。ぜひお近くの読書会にご参加ください。 また、読者が選ぶ翻訳ミステリー大賞、略して『どくミス!』を年に一回(4~5月)開催しています。 こちらも併せてお楽しみください。

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