【候補作読書】コードネーム・ヴェリティ
※これから不定期にではありますが、次回読者賞の対象作品を読んだ感想を掲載していきたいと思います。拙いものではありますが、次回投票の参考にしていただければ幸いです。
冒頭で、捕虜となっている女性はナチスからの拷問を受け、軍の機密を次々に漏らしていきます。その後、親衛隊大尉の許可を得て、手記をしたためていくことになるのですが、紙不足のなかにあったため、便箋のみならず処方箋やホテルの宿泊者カードのようなものに記録しなければなりません。紙に苦労し、見張りや検閲などの厳しいなか綴られたその手記には、捕虜の女性本人のことではなく、マディという少女のことが書かれていました。しかも、手記あるいは報告という形ではなく、物語という形を取って。
二部構成になっている本作の第一部は、その手記がメインです。マディという少女が、どのようにして飛行機、空を飛ぶことに魅せられ、軍の仕事をすることになったのか。また、マディとは身分が違い過ぎるため、戦時中でなければけっして出会うことのなかったであろうクイーニーと呼ばれる女性と、どのようにして友情を育んでいったのかが、捕虜として、いつかは処刑されるかもしれない身であることが信じられないくらい生き生きと描かれます。誰も汚すことのできない、尊く美しい青春の記憶。マディとクイーニーの高潔な友情を描き続けることが、捕虜自身の救いになっていたのかもしれません。
しかし、それはいったいなんのために書かれているのでしょうか。手記を書いている途中に、同じく捕虜となっていたフランス人女性がギロチン刑に処されます。手記の筆者にとって、いずれ自分もそのような運命を辿るだろうと想像することは容易であり、そのような状況で書き続けられた手記に、いったいどのような意味、あるいは意図があるというのでしょうか。第一部は、そのような疑問にひとつも答えることなく、しかも唐突に終わります。
第二部では、第一部でわからなかった事柄のひとつひとつが、まるでこんがらがってしまった毛糸玉が少しずつ解けていくように明らかになっていきます。そのようにして明らかになっていく事実は同時に、戦火のなか、かけがえのない友情を育んできたマディとクイーニーの運命を大きく揺さぶってゆくのです。
第二部を読み進めるにつれて私たちの前に明らかになるのは、第一部で残された謎だけではありません。わからなかった事実が明らかになることによって、二人の女性が、ナチスという絶対的な悪、暴力に対していかに強く抵抗し続けたかということを浮き彫りにしていくのです。謎を明らかにすることで二人の生きざまを強烈に描き切る、この手法こそ、本作のいちばんの読みどころではないかと思います。その意味で、本作はミステリーというよりも、どんな困難にもけっして屈することのない、二人の女性の気高い精神についての物語だと言えるのではないでしょうか。
読了後、私はTwitterにこんな投稿をしました。
読了後、私はTwitterにこんな投稿をしました。
雑食@zasshoku
エリザベス・ウェイン『コードネーム・ヴェリティ』(吉澤康子訳 創元推理文庫) 5点満点中10点をつけたいほどの傑作でした。2017/05/13 11:42:15
0コメント