「どくミス!2025」投票のお願い
私たちはなぜ「どくミス!」を開催するのか
本が売れない
本が売れなくなった。
そう言われるようになってもうずいぶん経ちます。そしてそのことに呼応するように、私たちの住む街から書店が消えつつあります。少し前までは書店が閉店すると聞くとけっこう驚いたものですが、最近は「またか……」という感じ。閉店の知らせに慣れ始めている自分がいます。
書店がなくなったら本に触れる機会も減る。触れる機会が減れば読まなくなる。するともっと本が売れなくなって、もっと書店が減っていく。私たちはいま、このような負の連鎖の只中にいるのかもしれません。
そんなことを言うと「いやいやそんな大げさな。本を買いたいならネット書店があるし、図書館だってあるじゃないですか」と言い出す人がいることでしょう。
わかります。ネット書店、便利ですし。私も地元の書店でなかなか手に入らないときには利用することもあります(梱包がひどいことに目をつぶる必要はあるにしても)。でも「触れる」という意味ではどうでしょう。ネット書店は買いたい本が決まっている人向けのサービスなので、特に買うつもりもなくぶらっと入って、気になったものを手に取っては戻しを繰り返し、店を出るときにはなぜか2~3冊買ってしまっていた……そんな楽しみを味わうことはできません。図書館に行けばもちろん本に触れることはできます。けど、公共図書館が全国に3300館ほど(2024年)あるのに対して書店の数は減ったとはいえ1万店(2023年)を超えます。書店のほうが図書館よりも3倍多い。ということは、書店で本に触れる機会のほうが単純計算で3倍多いということになります。そして、これからも本が一般の人に浸透していくためには、この「触れる」というプロセスがどうしても必要なのだと私は思っています。書店が減るということは本に「触れる」機会がどんどん減っていくということを意味しています。
本のことを好きになってもらうには、本に触れる機会を絶やさないことが最重要だと私は考えています。
本の価格が高くなった
「本ってどんどん値段が高くなってません? 贅沢品といってもいいくらいじゃないですか」といって本を買わなくなった人がいるかもしれません。
確かに本は高くなったと思います。もちろん高くなったのは本だけではないわけで、毎月決まった収入で生活するためには、本代を削って他に充てる必要がある。米が高くなっても買わないわけにはいかない。じゃあ本を買うことを控えて、浮いたお金を米代に回すのは生活するうえでごく自然な対応です。そうやって本を買わなくなった人を責めるわけにはいきません。
これから景気がよくなったとしても、ガソリン価格などのように本の価格が下がったりすることはないでしょう。高くなった本は、これからも高いまま店頭に並び続けます。私たちの収入が劇的に増えるのであれば、その一部を本代に回すことができるかもしれませんが、そんな劇的な変化を期待できるような世の中では、いまのところありません。
ではどうするか。買う本を厳選しなければなりません。私たちはどのような本を買うべきなのか。それを指し示してくれる、道しるべになるようななにかが必要なのです。ふらっと書店に立ち寄って、棚を見て回って手に取って、気づいたらレジで支払っていたという経験が起こりにくくなってきた今こそ、その代わりになるものが必要なのです。この本は私にとって必要なのか。書店で手に取って考える代わりにそれを示してくれるなにかが必要なのです。
本に触れる機会を増やす
いま、SNSで本を紹介するインフルエンサーが人気です。私もたまに見ますが、限られた時間で作品の魅力をとてもうまく紹介していて驚きます。フォロワー数を見ればその影響力の大きさも伺えますし、紹介された本の売上にも影響が出てくるのでしょう。それはとてもいいことだと思います。でも、圧倒的に足りない。
ひとりのインフルエンサーが毎日1冊ずつ紹介したとしても1年で365冊。年間に刊行される本の点数(およそ7万点)から見れば微々たるものです。私は書評をよく参考にしますが、書評を読んで購入にいたるのはだいたい月に1~2冊くらいでしょうか。書評を生業とする方がどのくらいいるのかわかりませんが、書評家の方がどんなにがんばって書評を書いたとしても、出版点数と比べたら、その影響もまた大きくはないと言えそうです。
インフルエンサーや書評家の努力をけなしているわけではありません。そのような活動には大きな敬意を表しつつ、でもそれだけではまだ足りないのではないか、本好きの人たちだけではなく、これから本を好きになってくれそうな人にその魅力を届けるために、もっと他にできることがあるのではないか、そんなふうに考えているのです。
さて、このサイトのテーマである海外小説というジャンルに目を向けてみると(ここはミステリーに特化したサイトですがあえて海外小説という括りで進めます)、「高い」「売れない」という現状が他ジャンルよりも明確に出ているような気がします。
「シリーズ二作目が刊行されないのは一作目が売れなかったからだ」とか「文庫の価格が単行本並みに高い」などというのは海外小説の世界ではよく見聞きする話で、まるで出版業界全体の問題をぎゅっと凝縮したかのような印象さえあります。書店においても、海外小説には棚のたった一列にも満たないスペースしか与えられていないところがたくさんあります。限られたスペースに売れないものを置いておくことはできない、そんな書店側の気持ちもよくわかります。
どうやったら海外小説に触れる機会を増やせるのか、それを考えなければなりません。
読書会がやってきたこと、これからできること
2011年から本格的に始まった翻訳ミステリー読書会には、もちろんもとからのファン向けという要素もあったと思いますが、それよりも一人でも多くの人に、海外小説の魅力を発信したいという思いがあったことは間違いありません。どの読書会も新しい人を歓迎し、多様な意見を尊重しながら楽しむ姿勢をいまも貫いています。その姿勢が、新しい読者の獲得につながっていると私は信じています。
読書会から生まれた活動のひとつとして、翻訳ミステリー読者賞があります。最初はほんの思いつき程度の話だったのが、昨年までで12回も続く賞になりました。これもまた、多くの人に海外ミステリーの魅力を伝えたいという思いでやっているものですが、最近はまた少し違う使命のようなものを感じつつあります。
私は、ファンの投票によってできあがる作品リストが「書店で本を選ぶ経験の代わりになるもの」になるのではないかと考えています。書店が減り、本の価格が上がっていくなか、インフルエンサーや書評家が発信する本の情報だけでなく、一般の読者からもこういう形で発信できるのだということを示していく、それが新しい使命のような気がしているのです。
ひとりの読者が年に10冊の本を読んだとして、そのうちの1冊を「どくミス!」に投票します。100人が投票してくれたら、それは1000冊のなかから選ばれた100冊ということになります(重複はもちろんありますがそれはさておき)。200人が投票してくれたら2000冊、1000人が投票してくれたら10000冊からより抜かれたリストになるわけです。こう考えたらどうですか? ちょっとわくわくしてきませんか?
みなさん、ぜひ「どくミス!2025」に投票をしてください。いま、海外ミステリーの魅力を知っているあなたが、まだ知らない人に向かってそのことを伝えるチャンスだと思ってください。そしてそれは、本が売れないという問題を解決する糸口になるかもしれないということを認識してください。あなたの1票が誰かの心を動かすかもしれない、そう信じて私たちは「どくミス!2025」を開催します。
投票期間は4月25日(金)から5月8日(木)の2週間です。関係者一同、みなさんの投票を心からお待ちしております!
「どくミス!2025」運営委員会 大木雄一郎
明日(4月24日)の21時半から、Xにて投票開始直前緊急スペースをおこないます。お聴きください。
https://x.com/i/spaces/1YqGooXZrmBGv
開催要項はこちらからどうぞ↓
「どくミス!2025」のご案内 | 全国翻訳ミステリー読書会
https://hm-dokushokai.amebaownd.com/posts/56296187
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